「補助金を探す自治体」から
「投資先として選ばれる地域」へ
令和9年度予算から読む、人口減少・地方政策・AIの転換
令和9年度概算要求の「投資枠」、地方創生2.0、地域未来戦略、ガバメントAIをつなぎ、人口減少下の自治体に求められる「投資」と「保障」、そしてAIを交換しても残る地域のデータ資産を考えます。
令和9年度予算の概算要求が動き始めました。財務省が2026年7月30日に示した方針には、地方自治体にとって無視できない言葉があります。『「強く豊かな日本」投資枠』。通常歳出とは別に設けられ、国内投資による潜在成長率の引上げを狙う枠です。要求上限を設けず、事項要求を認め、複数年度計画を基本とし、恒常施策は当初予算へ移す方針です。
一見すれば予算編成上の変更です。しかし、デジタル田園都市国家構想、地方創生2.0、日本成長戦略、地域未来戦略、ガバメントAIまでをつなぐと、別の光景が見えてきます。
本稿では、地方財政全体が「投資先の選別」へ変わると主張するものではありません。地方交付税をはじめ、自治体の財源を調整・保障し、地域の行政サービスを支える制度は引き続き存在します。そのうえで、国の成長投資・重点支援政策の重心を見ると、地方を「デジタルを導入する場所」から、「国内投資、産業、インフラ、人材を組み合わせる場所」として捉える傾向が明確になってきたのではないか。これが本稿の仮説です。
AIも、目新しさを競う道具から、人口減少下で行政と地域社会を維持する共通基盤へ変わり始めています。令和9年度予算はまだ成立していません。それでも概算要求段階の文章には、政府が何を「投資」と呼び、何を見直すべき支出と見るのかが表れます。
地方にとって重要なのは、補助金の金額だけではありません。何に予算をつけるのかを決める、国の物差しそのものです。
1.令和9年度概算要求――「投資枠」というシグナル
令和9年度の概算要求方針は、危機管理・成長投資などを予見可能性を持って実施することを掲げています。その受け皿が『「強く豊かな日本」投資枠』です。特徴は四つあります。
要求上限を設けず、事項要求も可能。ただし査定は行われる。
導入だけでなく、運用・改善・成果まで同じ時間軸で捉える。
恒常施策の補正予算依存を減らし、準備と計画の時間を確保する方向。
AI・半導体、GX、経済安全保障などを長期投資として扱う。
通常歳出とは別に扱う
通常の「その他の経費」は前年度当初予算相当額の範囲で要求し、その20%以内で要望します。これに対し投資枠は要求上限を設けず、事項要求も可能です。ただし、要求額がそのまま認められるわけではありません。事業の妥当性、重複、金額、効果は査定されます。
複数年度の計画を基本とする
地域DXでは、年度内に導入し、利用者数を集計して終わる単年度実証が繰り返されてきました。今回の方針は、単年度の「導入」ではなく、投資、運用、改善、成果までを一つの時間軸で捉えようとしています。
補正予算依存から脱却する
恒常的な政策まで補正予算に載せると、自治体は短い公募期間の中で事業を組み立て、政策課題ではなく補助制度に企画を合わせがちです。「地域に何が必要か」から事業を考えるのではなく、「この補助金で何ができるか」から逆算する。自治体DXの現場で繰り返されてきた構造です。恒常施策の当初予算化が進めば、自治体にも準備時間が生まれます。複数年度の投資計画と当初予算化は、一体として読む必要があります。
AI・半導体、GX、経済安全保障を長期投資として扱う
AI・半導体については「AI・半導体産業基盤強化フレーム」、GXについては「GX2040ビジョン」を踏まえた要求が想定されています。ここでAI、エネルギー、地域産業、インフラは別々の政策ではなくなります。データセンターには電力と通信、半導体工場には用地・工業用水・道路・人材、物流の自動化にはデータ・拠点・地域交通が必要です。
今回の投資枠だけで地方政策全体の転換を断定することはできません。また、この投資枠はあくまで国の予算編成上の枠組みです。自治体への影響は、今後各府省が具体化する補助金・交付金、広域インフラ整備、規制・制度支援、さらに民間投資を地域へ呼び込む政策などを通じて現れることになります。しかし、地域未来戦略が戦略産業クラスターや国内投資と地域政策を接続していることまで含めて読むと、国の重点政策が「地域へのデジタル導入」から「地域を含む国内投資の設計」へ広がっていることは、一つの重要なシグナルだと考えられます。
2.デジ田から地域未来戦略へ――地方政策の重心はどう動いたか
2021年に始まったデジタル田園都市国家構想は、デジタルで地域課題を解決し、全国どこでも便利で快適に暮らせる社会を目指しました。遠隔医療、教育、農林水産業、行政手続、地域交通などへ実装を広げ、自治体が新しい技術へ触れる入口を作った意味は大きかったでしょう。
一方、現場では「導入したこと」が成果になりやすい問題もありました。本来問うべきなのは、職員の仕事や住民負担がどれだけ減ったのか、地域内取引や所得が増えたのか、運用費を含めて持続できるのかという成果です。
2024年以降、政策の枠組みは「新しい地方経済・生活環境創生」へ移り、2025年の地方創生2.0基本構想では人口減少を正面から前提に据える色彩が強まりました。さらに2026年の地域未来戦略では、産業集積、インフラ、人材、民間投資を組み合わせる方向が強く打ち出されています。大まかに整理すると、政策の重心は次のように変化しています。
※政策文書をもとにしたCIVIOの整理です。政府が公式に三段階を定義したものではありません。
| 段階 | 地方の捉え方 | 政策の中心 |
|---|---|---|
| デジタル田園都市国家構想 | デジタルで課題を解決する地域 | サービス実装、利便性、デジタル格差 |
| 地方創生2.0 | 人口減少下でも生活と経済を維持する地域 | 産業、所得、人材、生活サービス、民間資金 |
| 地域未来戦略 | 日本の成長と経済安全保障を担う地域 | 産業クラスター、国内投資、インフラ、広域連携 |
※この表は政策文書をもとにしたCIVIOの整理であり、政府が公式に三段階を定義したものではありません。
「デジタル田園都市国家構想が終わった」と考えるのも正確ではありません。デジタル政策が消えたのではなく、デジタルが特別な政策分野ではなくなり、産業、行政、交通、医療、教育、エネルギーの中へ溶け込んだ。
それは一つの成功であると同時に、DXという看板だけでは、予算の理由にならなくなった。ということでもあります。
3.投資する財政と、生活を保障する財政
令和8年度一般会計当初予算は122.3兆円です。財務省の概要資料では、年金・医療等が37.0兆円、国債費が31.3兆円、地方交付税交付金等が20.9兆円と整理されています。
既存予算の大半は簡単に動かせません。一方、概算要求方針は歳出全般の優先順位を洗い直し、補助金や基金の自己点検を要求へ反映させることも求めています。骨太方針2026でも、政策目標、成果、費用対効果を予算編成へつなげるEBPMの強化が示されています。
つまり、効果が高いと判断した分野には長期的に資金を入れる一方、効果を説明できない事業は見直す。投資枠と査定強化は同時に進みます。自治体には、「地域に必要だから」だけでなく、どの課題を、どの投資によって、どれだけ改善するのかという因果関係の説明がこれまで以上に求められます。
ただし、ここで地方財政全体を「投資価値による選別」と捉えるのは正確ではありません。地方交付税法は、地方団体間の財源の均衡化と、地方行政の計画的な運営の保障を目的としており、普通交付税も基準財政需要額と基準財政収入額の差を基本に財源不足を補う仕組みです。つまり地方財政には、もともと二つの異なる論理があります。
課題・投資・成果の因果関係を説明し、複数年度で検証する。
医療・介護・教育・交通・防災など、採算だけでは測れない基盤を守る。
将来の価値を生み出すために投資する論理。地域で生活を続けるための条件を保障する論理。
医療、介護、教育、交通、防災は、採算が取れるから必要なのではありません。「投資」と「保障」は、どちらか一方を選べばよい関係ではないのです。
研究者の視点:神野直彦|財政と生活保障
神野直彦の財政学は、財政を単に市場の失敗を補う財布ではなく、人間の生活を支える社会的制度として捉えます。
この視点から問われるのは、成長率だけではありません。
地域の生活条件と、自治体が住民の必要に応じて公共サービスを組み立てる自己決定の余地を守れているか。
成長のために地域があるのか。地域で人が生きるために成長が必要なのか。
この順序は、似ているようで大きく違います。
投資には、撤退条件も必要になる
「投資」と名づければ、すべての支出が将来の便益を生むわけではありません。国が初期費用を支援し、自治体がシステムや施設を導入し、補助が終わった後の維持費だけが地域に残る。この構造を複数年度化すれば、失敗まで長期化する可能性があります。
だから、複数年度の投資計画には、
- 継続する条件
- 縮小する条件
- 別の方式へ乗り換える条件
- 撤退する条件
まで必要です。
研究者の視点:土居丈朗・小林慶一郎|投資と財政規律
土居丈朗の地方財政研究からは、政府間財政関係が自治体の行動へどのような誘因を与えるのか、誰が費用と責任を負うのかという問題が見えてきます。
小林慶一郎は、公的投資が生産性と成長を高める可能性を認めつつ、積極財政を「運任せ」にしないための規律を求めています。
両者の問題意識を今回の政策へ当てるなら、重要なのは「投資額を増やせること」ではなく、成果が出なかった場合にも見直せる仕組みです。
複数年度計画には、複数年度の成果検証と撤退設計が必要です。
4.AIが安くなるほど、「壊れない行政」の設計が重要になる
AIのコモディティ化とは、利用費用と参入障壁が下がり、「AIを使えること自体」が差別化になりにくくなることです。Stanford HAIのAI Index 2025は、GPT-3.5相当の性能を得る推論費用が短期間で大幅に低下したことを示しています。一方、最先端モデルの学習、半導体、計算基盤、電力には巨額の資本が必要です。
そのため、基盤モデルや半導体を開発する層は資本集約化し、利用する側のAIは安価で交換可能になる。という二層化が進むと考えられます。
政府がAI・半導体へ大規模な公的支援を行う一方、デジタル庁がガバメントAI「源内」の一部をOSSとして公開しているのも、この構造で考えると理解できます。基盤技術は経済安全保障として確保する。利用環境は共通化し、広く使えるようにする。
2026年5月、ガバメントAI「源内」の大規模実証が始まりました。全府省庁の約18万人が利用できる環境を目指し、生成AIの効果と課題を検証して、2027年度以降の本格導入につなげる段階です。ここは慎重に読む必要があります。
「源内」は中央省庁を対象とした取組であり、これがそのまま自治体へ配備されるわけではありません。源内は、自治体AIの完成形でも、共通基盤の決定打でもありません。それでも、モデル、行政向けアプリ、政府共通データ、安全な利用環境を組み合わせ、モデルそのものではなく、その周囲のデータ・制度・利用基盤まで整備する方向は、自治体DXを考えるうえでも示唆的です。
重要なのは、特定のモデル名ではありません。モデルを交換しても残るものです。行政データ。標準仕様。API。IDと認証。業務フロー。判断記録。監査ログ。職員の知識。そして住民との信頼関係。
ここで必要なのは、単に大量の「ビッグデータ」を集めることではありません。条例・要綱、行政手続、地域交通、福祉、産業、GIS、予算・決算など、それぞれの地域がすでに持っている情報について、所在、形式、品質、更新責任、利用権限、個人情報の扱い、参照履歴を整理し、AIが安全に利用できる状態へ変えることです。言い換えれば、自治体がこれから残すべき重要な資産の一つは、特定のAIモデルではなく、AIが使える状態に整理された行政・地域データ資産です。AIが安くなり、モデルを乗り換えられるようになるほど、こうしたデータ資産と業務基盤の価値は高くなります。
自治体が「生成AIを導入しました」と言うこと自体の価値は、急速に薄れます。問われるのは、安全な参照、個人情報の分離、根拠と処理履歴の監査、モデルの交換可能性、誤りが起きたときの責任設計です。AIの導入ではなく、AIが入っても壊れない行政と、AIを交換しても残るデータ資産を設計する必要があります。
研究者の視点:吉川洋|人口減少とイノベーション
吉川洋は、人口減少をそのまま低成長へ結びつける「人口宿命論」を批判し、成長の鍵としてイノベーションを重視してきました。
この視点から見れば、働き手が減るから衰退するのではなく、技術と業務の組み替えによって一人当たりの生産性を高める余地があります。
AIやロボットはその手段になり得ます。
なお、省力化によって生まれた価値が地域に残るかどうかという論点は、吉川の主張そのものではなく、そこからCIVIOが地域政策へ引き直した問いです。
研究者の視点:曽我謙悟|技術と行政組織
曽我謙悟の行政学は、官僚制や地方政府を制度とアクターの相互作用として捉えます。
この視点をAIへ当てると、技術を導入しても組織が自動的に変わるわけではないことが見えてきます。
誰がデータへアクセスするのか。AIの提案を採用する権限は誰にあるのか。誤りが起きたとき誰が責任を負うのか。
AIも、既存の権限関係、評価、予算、人事を通って実装されます。
行政組織を変えずにAIだけを入れれば、古い仕事を速く処理するシステムができるだけです。
5.自治体DXは「製品選び」から「投資設計」へ
これまで自治体DXでは、製品の選定から議論が始まることがありました。どの生成AIを使うか。どのアプリを入れるか。どのベンダーへ頼むか。しかし、AIがコモディティ化するなら、順番は逆になります。
製品より先に、投資設計の順番を確認する
各ステップを選択すると、記事の要点を短く表示します。
何を改善するのかを、モデル名や製品名より先に置きます。
- 地域・行政課題を定義する
- 業務とデータを棚卸しする
- 標準化できる部分と地域固有の判断を分ける
- AIが補助・代替できる工程を見つける
- 成果を測るKPIと撤退条件を決める
- 最後にモデルや製品を選ぶ
人口減少下で「AIチャットを導入する」は事業目的になりません。処理時間、担当件数、住民の移動、職員負担をどこまで改善し、削減した時間を何へ振り向けるのか。そこまで設計して、初めて行政生産性への投資になります。
一自治体ですべて持つ必要はない
共通化できる法令検索、文書要約、議事録、照会、調達、セキュリティ、監査は、国や広域圏で共同利用する。自治体固有の条例、地域データ、政策判断、住民との接点は地域側に残す。
| 共通化する層 | 地域に残す層 |
|---|---|
| 安全なAI利用環境 | 条例・要綱の運用判断 |
| 基本的な行政データ標準 | 地域固有データ |
| ID・認証・監査 | 住民との対話 |
| 汎用的な行政AIアプリ | 政策の優先順位 |
| モデル評価・セキュリティ | 地域企業・大学との連携 |
これは自治体を均一化する構想ではありません。共通化できる道具を共同で持つことで、地域固有の判断へ人と時間を使えるようにする。という考え方です。
研究者の視点:佐藤主光|国・広域圏・市町村の役割分担
佐藤主光は、地方分権の下でも政府間財政移転は必要であり、そのあり方の「質的転換」を論じています。
人口減少とインフラ老朽化が同時に進む中では、すべての機能を一自治体が単独保有し続けること自体が難しくなります。
国が担う基盤、都道府県や広域圏が共同で持つ機能、市町村が地域の実情に合わせて決めるサービス。
その区分と財源、責任を対応させることが重要になります。
もちろん共同利用にも危険があります。共通基盤が巨大化すれば障害やサイバー攻撃の影響も広域化します。標準化が強すぎれば地域固有の運用が切り捨てられ、利用ログの扱いによっては生産性向上が監視強化へ変わる可能性もあります。便利な共通基盤ほど、権限、監査、退出可能性を設計しなければなりません。
6.令和9年度に向け、自治体は何を準備するのか
令和9年度の概算要求方針を受けて、自治体が今から準備できることはあります。
補助金一覧ではなく、地域課題の投資台帳を作る
課題、現在の費用、必要人員、サービス水準、関連データ、解決手段、期待効果を一枚につなぎます。「何に使える補助金があるか」ではなく、「どの課題へ投資すれば、何が変わるか」を先に整理します。
単年度事業を、複数年度の変化へ組み直す
初年度はデータ整備、2年目は小規模実装、3年目は業務再設計と広域展開など、導入後までを計画します。継続条件だけでなく、中止・縮小・乗換えの条件も最初に決めます。
「導入件数」から生産性と生活成果へKPIを変える
アカウント数やダウンロード数だけではなく、処理時間、待ち時間、移動距離、運用費、職員負担、サービス到達率、地域内取引などを測ります。ただし、相談の質、住民の安心、職員が考える余白など、定量化しにくい価値も補助指標として残します。
データと業務の棚卸しを、AI調達より先に行う
データの所在、更新責任、公開範囲、個人情報、保存期間、形式、品質を確認します。さらに、どのデータを誰が更新し、どの権限でAIが参照し、どの処理履歴を残すのかまで整理する。目標は「データを集めること」ではなく、AIが安全に使える状態に整えられたデータ資産を地域に残すことです。紙や属人的な運用をそのままAIへ渡しても、混乱を高速化するだけです。
単独導入と共同利用を分ける
国、都道府県、広域連携、市町村、民間が担う層を整理します。費用削減だけでなく、障害時の代替手段と基盤から退出する条件も決めます。
地域に残る価値を説明する
国の成長戦略に接続するだけでなく、投資によって生まれる雇用、所得、調達、技術、意思決定が地域にどれだけ残るかを示します。AI・DX投資であれば、そこにもう一つ加わります。事業終了後にも再利用できる、整理された行政・地域データ資産が残るか。
特定ベンダーのシステムの中にデータが閉じ込められるのではなく、次のAIや別のサービスでも活用できる形で、標準化、更新責任、権限管理まで含めて地域側に残すことが重要です。地域が実証場所だけになり、データ、知識、利益が域外へ流れる事業は、長期的な地域投資とは呼びにくいでしょう。
令和9年度に向けた準備の自己点検
記事で挙げた6つの準備論点を、検討済みかどうか確認できます。制度適合性や採択可能性を判定するものではありません。
7.「投資先として選ばれない地域」は、どうするのか
ここまでの議論を「すべての自治体が大型投資を誘致しなければならない」と読む必要はありません。人口規模、地理条件、産業集積によっては、戦略産業クラスターや大規模な企業投資の中心になりにくい地域もあります。だからこそ、自治体には別の戦略が必要です。
持たないことを設計する
すべてのシステム、施設、専門人材を自治体単独で保有する前提を見直します。国、都道府県、広域圏、民間の基盤を利用し、地域側に残すべき機能を絞る。
広域で生活サービスを支える
交通、医療、物流、行政システムなど、自治体境界より生活圏の方が大きい分野では、広域共同化を前提に再設計する。
「拡大」だけでなく「縮小」をDXする
人口が減る以上、すべてのサービスを現在と同じ形で維持することはできません。窓口、施設、移動、業務を統合しながら、住民に必要なサービス水準を守る。
例えば、複数の窓口をオンラインと巡回窓口へ再編する。不採算の定時定路線をオンデマンド交通へ組み替える。施設統合にあわせて予約・相談・移動手段をデジタルでつなぎ、住民への説明や合意形成の過程も記録する。撤退や縮小を、単なる切り捨てではなく再設計として扱うDXも必要です。
地域外の基盤を使い、意思決定は地域に残す
クラウド、AI、共通システムは地域外のものを利用してもよい。しかし、何を優先し、どのサービスを守り、誰へ資源を配分するかという判断まで外へ出す必要はありません。
投資を呼ぶ地域と、生活を守る地域を対立させない
一つの地域の中でも、成長投資を取りに行く分野と、採算にかかわらず守る分野は共存します。重要なのは、「選ばれること」そのものを目的にしないことです。
地域の目的を実現するために、どの投資を使い、どの保障を残すのか。この順番を逆にしないことが地方自治には必要です。
8.国の投資戦略を使いながら、地域の目的は地域で決める
一連の地方政策をつなぐと、デジタル実装は人口減少下の経済・生活維持へ広がり、さらに国内投資、産業クラスター、経済安全保障へ接続されつつあります。AIも、珍しい実証技術から、行政や産業を支える共通基盤へ移ろうとしています。その意味で、令和9年度は「新しいDX補助金の年度」というより、デジタル、AI、GX、インフラ、地域産業を複数年度の投資として組み替える動きが強まる年度になる可能性があります。
自治体に求められるのも、補助金へ事業を合わせる能力から、地域課題を投資計画として説明する能力へ変わっていくでしょう。
しかし、投資だけが地方の未来ではありません。人口が少なく、産業集積が弱く、短期的な費用対効果を示しにくい地域にも、人は暮らしています。医療も、交通も、教育も、行政も必要です。だから自治体は、国に選ばれる企画を作るだけでは足りません。
何を共通化し、何を地域に残すのか。どの成長へ参加し、どの生活条件は採算にかかわらず守るのか。AIで何を速くし、人にしかできない何を残すのか。そして、AIやシステムを乗り換えても使い続けられる、AIが使える状態に整理されたデータ資産を地域にどう残すのか。
国の投資戦略を利用しながら、地域の目的まで国に決めさせない。令和9年度を前に問われているのは、「来年はどんな補助金が出るか」ではありません。自分たちの地域は、日本がこれから投資しようとしている課題のどこを担えるのか。
そして同時に、投資の物差しだけでは測れない何を、地方自治として守るのか。「投資」と「保障」の両方を設計すること。それが、人口減少時代の地方自治に求められる次の仕事ではないでしょうか。
「投資」と「保障」の両方を設計し、AIやシステムを乗り換えても残るデータ資産と意思決定能力を地域に残す。
主な参照資料
- 財務省「令和9年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」2026年7月30日(添付資料)
- 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026」2026年7月21日
- 内閣官房「日本成長戦略」2026年7月21日
- 内閣官房「地域未来戦略」2026年7月21日
- 内閣官房「地域未来戦略に関する関係副大臣等会議(第3回)」2026年5月18日
- 内閣官房「地方創生2.0基本構想」2025年6月13日
- e-Gov法令検索「地方交付税法」
- デジタル庁「ガバメントAI『源内』」
- デジタル庁「全府省庁の約18万人を対象としたガバメントAI(源内)の大規模実証を開始しました」2026年5月28日
- デジタル庁「ガバメントAI『源内』をOSSとして公開」2026年4月24日
- 経済産業省「AI・半導体産業基盤強化フレーム」
- Stanford HAI, “AI Index 2025: State of AI in 10 Charts,” 2025年4月7日
- 神野直彦「地方財政の使命を果たすために」
- 土居丈朗ほか「地方政府の財政健全化行動の要因分析」2023年
- 佐藤主光「地方財政論 講義ノート1」
- 佐藤主光「政府間財政移転の『規範的』機能」
- 小林慶一郎「運任せにしないのが『責任』」2026年2月18日
- 小林慶一郎「日本の財政の持続性と経済成長について:サーベイ」2013年
- 吉川洋「少子高齢化と経済成長」2011年
- 吉川洋「人口減少、産業構造の変化と経済成長」2019年
- 曽我謙悟「研究業績一覧」
※本稿は2026年8月13日時点の公表資料に基づく改稿版です。令和9年度各府省概算要求の公表後、要求額と事業内容を再確認する必要があります。